板倉俊之/『トリガー』
こんにちは、さいじょーです。
このブログを開設するにあたり、1度やってみたかったことを本日のテーマとしましょう。
それが、書評。
いや、一般人の僕が書評なんて大それたタイトルを掲げるのは恐れ多いのですが、
読んでて「いいな」と思った本を、感想を交えて皆様にお伝えできたらなと思います。
そこで、記念すべき第一回に選んだ本はこちら。
板倉俊之 / 『トリガー』
この板倉俊之という名前にピンとくる方もいるでしょう。
そう、この方、実はお笑いコンビ「インパルス」の板倉さんなんです。
数ある小説家、作品の中から第一回に選んだのがお笑い芸人さんであるということは少し置いといて、
はねるのトびら、エンタの神様、、おもしろいうえに世代ど真ん中で子供のころから大好きな芸人さんの中のおひとりなんですが、
コント師として、作られているネタがすごくストーリー性の高いものだったり、タバコ・ギャンブル・戦争といった人間の欲望からくるテーマがリアルだったりと、
ご本人の趣味嗜好がコントにも文章にも非常によく表れているように感じ、ビビっときましたので今回はこちらの本をご紹介することにしました。
まずは『トリガー』のタイトル通り、話の主軸になるキーアイテムは銃。
物語の冒頭、表紙で銃を構えている青年が
電車内で2人、駅を降りた先で乗ったタクシーの運転手を1人、銃で殺害するところから始まります。
叫び、恐怖し、逃げ惑う乗客たちを尻目に日常のようにふるまう青年。
駆け付けた警察は彼を捕まえるどころか、挨拶をする。
これは現代からほんの少し未来の、「射殺許可法」という法律が施行された世界での物語だったのです。
一般公募で都道府県に各1名ずつ「トリガー」という人員が選任され、銃と証明手帳が支給される。
トリガーは自身が悪人と判断した者に対しての発砲を許可され、それに関して一切の罪を問われない。
犯罪を減らすためと銘打って施行されたこの法律だが、
実際に人間を殺傷できる武器を手渡されていることと、それの使用に関して罪に問われないという特異な制度により、
正義の鉄槌を下す者、欲に駆られ溺れる者、葛藤に苛まれる者、自らの精神を病む者。
そして時に犯罪を制し、時に人々を更生させ、時に復讐を呼ぶ。
射殺許可法が産んだ複数人の視点とストーリーと共に、人間の美しさと汚さを描くテンポの良い展開は痛快そのもの。
板倉さん自身、不条理な世の中や汚い大人たちをたくさん見てきたのでしょう。
複数人のトリガーそれぞれの視点から描かれた物語は、
そんな現実世界に警鐘を鳴らすように、銃口を突き付けるように、反発や戒めを含んだかのような書き口で淡々と進んでいくのです。
俗世を思い描き、表現する能力はコント師としてのネタ作りにも通ずるものがあるのでしょうか。
一言一言のワードチョイスも豊かでありながら難解な表現ではなく非常に読みやすい。
物語に引き込まれるように時間を忘れ、もう一章、もう一章と次々とページをめくってしまう高揚感がそこにはありました。
もともと、インパルスとしてファンだったことに加え、『トリガー』で文章としてのファンにもなってしまった勢いで、
銃をテーマにした本作と別にギャンブルをテーマとした『蟻地獄』という作品も併せて読みましたがこれもまた面白い。
人間の欲望からくるドロッとしながらも痛快なサスペンスをお探しの方にオススメの作品です。
板倉俊之/『トリガー』
それではまた次回、お会いしましょう。